ハゲる
皮膚病には、ダニなどの寄生虫、バイ菌などの細菌やカビなどの感染、あるいは、アレルギー性や内分泌異常などさまざまな種類がある。
そのなかで、とくにネコに多い皮膚病について考えてみると…。
監修/串田動物病院 院長 串田 壽明
京都市西京区桂千代原町72の16 TEL(075)381-3035

ネコに多い白癬(はくせん)

イラスト
illustration:奈路道程

 

 全身毛皮でおおわれたネコたちが皮膚病にかかったとき、飼い主が気づきやすいのが、皮膚病による脱毛である。
 ネコの皮膚病で多いのは、「水虫」でおなじみの、一般に白癬(はくせん)と呼ばれる病状で、カビ(正確には皮膚糸状菌)に感染してかかるものだ。最初、このカビに感染すると、患部が赤くなったり、ブツブツができたり、フケがたまりやすくなる。やがてカビが毛根を侵すと毛が抜け、ほぼ円形に脱毛する。このカビは、皮膚の表面をおおう角質層で増殖する。おもに保菌者の母ネコから、乳幼児期に母子感染しやすい。
 水虫などの白癬は、皮膚の表面が治っても、すぐにまたひどくなる。それは、人間の足の裏の角質層が厚く、全部の細胞が入れ替わるまで半年ほどかかるためだ(根治するには、半年から1年は、毎日、薬をぬり続けなければならない)。
 さいわい、ネコの場合、角質の薄い体表部が感染することが多いため、1、2カ月、治療を続ければ、ほとんど全治する。もっとも、塗り薬をぬるだけでは、ネコがすぐになめて効果がうすい。錠剤の飲み薬をくだき、それに味の良い胃腸薬を加えてフードに混ぜて与えるとよい。こうして、1、2カ月、毎日、薬を服用させれば、問題はない。
 飼い主が注意すべき点を付け加えると、皮膚の新陳代謝で、毎日、角質は表面からボロボロ落ちている。そのため、家の中にたえず白癬菌がばらまかれ、せっかく、治療して治りかけても、愛猫が再感染するおそれが強く、また人間に感染する心配もある。毎日、家中、ていねいに掃除機をかけ、清潔にたもつ必要がある。とにかく、ネコの白癬菌は人間にも感染する。要注意である。2カ月ほど、愛猫を別室かケージに入れるなどして、清潔に飼えば、全治する。

ノミアレルギー性皮膚炎やその他の寄生性皮膚炎
   次に多いのがノミアレルギー性皮膚炎である。ノミがネコの体で異常に増えると、患部をかきやぶったり、かみやぶったりして、毛が抜け、ひどい皮膚炎になる。主なところは、尻尾の付け根から背中、内股や首筋など。外を出歩く機会の多いネコは、いつもどこかでノミをつけて帰ってくる。ノミはおもに春から秋にかけて、ネズミ算ならぬノミ算で増殖をくり返すため、いったん、家の中で増えはじめれば、なかなか手に負えない。さらに冬場も快適な居住環境が保障され、ネコもノミも居心地がよくなったのである。
 もっとも、近年の獣医学の進歩は、ノミの進化を追い越し、成虫には首筋に殺虫剤を滴下し、成虫の何倍、何十倍もの卵には、「発育阻害剤」でサナギから成虫への脱皮をはばむなど、強力なノミ駆除剤が開発され、普及してきた。動物病院で、それぞれ最適な治療を受ければよい。ただし、これも白癬同様に自宅をつねに清潔にして、ノミの付け入るスキをなくすことが大切である。
 そのほか、犬に多い、疥癬(かいせん)やアカラス(毛包虫症)などの寄生性皮膚病は、ネコにはあまりみられない。疥癬とは、疥癬虫ともいわれるヒゼンダニが原因の皮膚病だ。ヒゼンダニは、皮膚にトンネルを掘って暮らし、そのなかで増殖をくり返す。これは、有効な薬剤を1、2度注射すれば治る。
 一方、アカラス(毛包虫症)の場合、昔は不治の病といわれたほどだった。この毛包虫はおもに授乳期に母子感染するようで、乳をまさぐる子ネコの頭や耳、あごなどの毛穴に寄生する。もっとも発症するのは、感染したネコの一部で、免疫力の弱い子ネコが多い。体力がつき、免疫力が高まると、一見、自然治癒したようになるが、毛包虫が毛穴にひそんでいて、そのネコが年をとって免疫力が低下すると、再発することが多い。もっとも、現在では、毛包虫に効く薬剤を注射や経口で飲み続けたり、薬浴を続ければ、治ることが多い。なお、疥癬、アカラスはネコより犬に多い皮膚病である。

はっきりとした原因のわからない神経性&心因性皮膚病
   そのほか、ネコにめだつ皮膚病に、神経性皮膚病あるいは心因性皮膚病といわれるものがある。これは、寄生虫やカビ、細菌感染、あるいはアレルギー性皮膚病など、はっきりした病因がないのに、ネコが前足などをしきりになめて、毛が抜け、皮膚がただれておこる皮膚病である。神経性とは、体のどこかに痒みや痛みを感じて、無性になめたりする場合である。心因性とは、飼い主が忙しくてあまりかまってくれなかったり、可愛がってくれた飼い主のひとりが転居したり、ネコ嫌いの人と同居するはめになったり、あるいは、近所に虫の好かないネコや犬が居ついたりし、それらの不安、不快感をまぎらわすために、前足などをしきりになめておこる皮膚病である。皮膚自体に原因がないので、治療法としては、ネコが患部をなめないように「エリザベスカラー」を首につけ、また、鎮静剤を使って気持ちをしずめてあげれば、よくなっていく。しかし、ネコにとって気がかりなことが解消されないかぎり、いったん皮膚病が治っても、また、同じところをなめだして、再発するケースも少なくない。
 とにかく、皮膚病はそれぞれの原因によって、使用する薬剤も治療法も大きく異なっている。外見だけで判断して安易な治療をおこなうと、かえって症状が悪化したり、薬の副作用で苦しむ結果になる。まず、動物病院で慎重に検査して原因を明らかにし、それにふさわしい治療を受けることが大切だ。

*この記事は、2000年3月15日発行のものです。

監修/串田動物病院 院長 串田 壽明
京都市西京区桂千代原町72の16 TEL(075)381-3035


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