多飲多尿でやせてくる
高齢猫に多い「慢性腎不全」
6、7歳以上の愛猫がよく水を飲み、たくさんオシッコをしていたら「慢性腎不全」の可能性も。
初期症状を見逃さず、早期発見・早期治療を!

【症状】
多飲多尿、やせ、やつれ、吐き気など

イラスト
illustration:奈路道程

 6、7歳以上の猫たちに最も多い病気のひとつが「慢性腎不全」である。
 腎臓の働きを簡単に述べると、まず、「糸球体」で血液中の赤血球やタンパク質などの大きな分子以外をこして「原尿」を作る。さらに「尿細管」で原尿中に含まれるほとんどの水分や、体に有用なミネラル、ビタミン、糖分などを回収。一方で体に有害な老廃物、余分な水分やミネラルなどを濃縮して(尿として)体外に排せつする。さらに造血を促すホルモンも分泌するなど、生存に不可欠な多くの機能を有している。
 そのため、腎臓は極めて丈夫で、全体の7、8割が機能不全にならないと目立った症状が現れない。しかも、肝臓と違って再生できず、いったん悪化すれば良くなることはない。
 飼い主が気づきやすい慢性腎不全の初期症状は、いわゆる「多飲多尿」である。愛猫がよく水を飲み、たくさんオシッコをする。一見、元気そうだが、実は大変な問題が潜んでいる。腎臓の機能が低下すれば、老廃物をうまくこし取れない。また、体に有用な水分やミネラルなどをうまく回収できなくなってオシッコの量が増え(脱水状態)、体に必要な水分を補うために、猫はたくさん水を飲もうとする。
 さらに症状が進めば、体内に有害な老廃物がたまって吐き気がひどくなり、食欲もなくなってくる。造血を促すホルモンが分泌できず、貧血状態になる。場合によっては体に必要なタンパク質が腎臓から体外に排せつされ、また、脱水状態がひどくなって衰弱が進み、ついには死に至る。

【原因とメカニズム】
老化、ウイルス・細菌感染、尿結石、不適切な食事・水分摂取、ストレスなど
 
 血液循環に従い、腎臓が終日、休むことなく働き続けていれば、血液を濾過する腎組織(糸球体など)も少しずつ傷んでいく。そのうえ、猫には腎臓に悪影響を及ぼしかねない増悪因子がいくつもある。
 例えば、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)、猫伝染性腹膜炎(FIP)などのウイルスに感染すれば、体を守るために免疫反応が起きる。その時、産生される免疫複合体が腎臓に沈着して腎炎を起こす。また、FIPになれば、腎臓に肉芽腫ができやすい。FeLVに感染すればリンパ腫になりやすく、腎臓型リンパ腫ができることもある。
 膀胱炎や膀胱結石、尿道づまりなどになり、細菌感染がひどくなれば、尿管を伝って感染が広がり、腎盂(尿管への導入部)腎炎になりやすい。また、細菌感染を起こさなくても、膀胱などに結石ができたり、尿道づまりになったりすれば、腎盂内の「圧」が高まり、腎臓に負荷がかかる。腎臓内に結石ができることもある。いろんな病気が腎臓の糸球体破壊の要因になり得るのである。
 また、多頭飼いなどで、猫にストレスがかかれば、腎臓への負荷も高くなる。安心して水が飲めないと、水分摂取量が減り、さらに腎臓に悪影響を及ぼす。生まれつき腎臓が弱かったり、先天性の腎臓病を持っていたりする場合もある。何かの病気の治療薬の副作用により、あるいは手術時の麻酔で腎臓への血流が低下して、腎機能が損なわれることもある。

【治療】
早め、早めの食事療法や症状改善・緩和療法で、腎機能の悪化を抑える
 
 初めに述べたように、腎臓はいったん悪くなれば、良くなることはない。大切なのは、症状が出始めたら、できるだけ早く治療を行い、腎機能低下の速度を抑えることである。
 猫のオシッコが薄くなり、オシッコの量や回数が増え始めるなど、腎機能の低下を示す初期症状が現れ始めたら、まず、腎臓の負担になりやすいタンパク質やリン、塩分(ナトリウム)などを抑えた療法食に切り替える。もちろん、猫がいつでも飲みたい時に水を飲めるように、室内のあちこちに水飲み場を作ることも重要である。
 腎臓が悪くなれば血圧が高くなり、それがさらに腎臓に負荷をかけるため、血圧を調整する薬剤を投与する。さらに、腎臓に負荷のかかるタンパク質やリンを体内(腸管)で吸着し、便とともに排出する吸着剤を投与する。
 貧血があれば、造血を促すホルモンを注射したり、鉄分、ビタミン、カリウムなどを補う(カリウムが不足すると脱力状態になりやすい)。吐き気があれば吐き気止めの薬剤、食欲不振なら食欲を高める薬剤を投与する。
 症状が悪化すれば、脱水状態がひどくなり、それが症状をさらに悪化させるため、水分補給に努めることが極めて重要になる。点滴をすればいいが、動物病院で長時間、それも何度も点滴を行えば、猫のストレスが高まり、かえって腎臓への負担が大きくなる。そこで、定期的(症状に合わせ、月に一度、2週間に一度、1週間に一度、毎日など)に皮下補液を行うのが有効である。これは、ラクダの「コブ」のように、背中の皮下にたっぷりと水分を注入し、体内に吸収させる方法である。

【予防】
適正な食事・飼育環境の実践と定期検診による早期発見・早期治療
 
 慢性腎不全は、老齢期に発症しやすい病気だが、先に述べたように、その増悪要因として、子猫の時からのウイルス感染症や細菌感染、膀胱結石、尿道づまり、ストレス、食事や水分摂取の問題などが考えられている。
 そうだとすれば、猫と暮らし始めたら、ワクチン接種、室内飼育、良質のフードとたっぷりの水、適度に刺激的で同時にのんびりと暮らせる環境などを整えることが、病気予防の基本となるだろう。とりわけ、食事管理は重要である。子猫の時から、愛猫が喜ぶからと干物など塩分の多い(人用の)食べ物を与えていれば、腎臓への負荷も大きく、また、慢性腎不全の初期症状が出て、療法食へ切り替えようとしても、うまくいかないことがある。
 また、6歳前後から、少なくとも年に一度は定期検診(尿検査と血液検査)を行えば、はっきりとした症状が現れる前に腎機能の悪化を見つけやすくなる。腎臓はいったん症状が悪くなれば、回復することはない。早期発見・早期治療が極めて大切である。

*この記事は、2006年7月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部附属動物病院 腎・泌尿器科 三品 美夏
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