耳ダニ |
【症状】 猫が耳をかゆがったり、黒い耳垢がたまると… |
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猫の外耳炎は、一般に「耳ダニ」とも呼ばれる「耳ヒゼンダニ」が感染して起こることが多い。 耳ヒゼンダニは、猫や犬などの皮膚病「疥癬」を引き起こすヒゼンダニの仲間で、成虫の体長は0.2〜0.3ミリ。猫や犬を始め、いろんな動物の耳の中だけに生息するダニである。猫の耳の中に寄生すると、耳の分泌物や皮質などを食べて生活し、活発に繁殖して、たくさんの卵を産卵する。卵は耳の中だけでなく、猫の生活環境のあちこちにまき散らされていく。 耳ヒゼンダニの生息数が増えていくと、かゆみがひどくなり、猫はしばしば耳をかいたり、頭を振ったりする。また外耳道には分泌物や耳ヒゼンダニのふんなどが混ざった、黒っぽいかさかさした耳垢がたまっていく。生息数がおびただしいと、外耳道の入口辺りまで耳垢がいっぱいになることもある。 耳ヒゼンダニのライフサイクルについて述べると、メスの成虫が産んだ卵は条件が良ければ二日から四日ほどでかえり、幼虫が現れる。幼虫はやがて脱皮を繰り返して第1若虫から第2若虫に育つ。第2若虫になると、成虫と交接する。その後、第2若虫は最後の脱皮を終えて成虫になるが、興味深いのは、成虫になる時に初めて、オスになるかメスになるかが決定されることだ。第2若虫がメスの成虫になれば、おなかの中にはすでに卵があり、ほどなく産卵する。反対に第2若虫がオスの成虫になれば、近くにいる第2若虫と交接。それぞれ子孫繁栄に力を尽くす。なお、卵から成虫までの成育期間は約三週間。成虫の寿命は一か月から二か月といわれている。 |
【原因とメカニズム】 子猫なら母子感染、成猫なら戸外での感染猫との接触 |
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猫はどこで耳ヒゼンダニに感染するのだろうか。もし耳ヒゼンダニが母猫に寄生していれば、母猫の耳の中だけでなく、寝床、通り道などの生活環境に耳ヒゼンダニの卵や幼虫などがたくさん散らばっているはずだから、いつの間にか子猫が感染しているに違いない。 たとえ子猫の時に感染していなくても、屋内と外とが出入り自由の家で育てば、家の庭や周り、路地、空き地などを行き来している間に、耳ヒゼンダニに感染した野良猫と接触したり、彼らがまき散らした耳ヒゼンダニの卵や幼虫などが体に付着して感染する可能性は高い。また多頭飼いの家なら、一匹の猫が戸外で耳ヒゼンダニに感染すれば、あっと言う間に他の猫に感染しても不思議はない。もちろん、飼い犬が耳ヒゼンダニに感染していれば、同居する猫に広がるのも時間の問題だ。 だから、多頭飼いの家でもし一匹でも耳ヒゼンダニに感染したら、他の猫や犬も同時に治療に専念しなければ、一匹が治っても、また他が…というように感染の輪がいつまでも続くだろう。 とにかく、耳ヒゼンダニの繁殖力は旺盛で、感染した猫や犬の耳垢を虫眼鏡や顕微鏡で調べれば、モゾモゾと動き回る耳ヒゼンダニが何匹も見つかることが多い。またその中に、交接中のダニが混じっていることも少なくない。 |
【治療】 適切な投薬治療と清潔な生活環境の確立 |
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猫に耳ヒゼンダニの感染が認められれば、すぐに治療を開始する。まず耳の中を洗浄して、耳ヒゼンダニの生息個数を減らし、その後ダニの駆除薬を少なくとも三週間ほど、一定間隔で投与していく。産卵されたばかりの卵が発育、成長して成虫になるまで着実に治療を続けないと再感染しやすいのである。幸い、耳ヒゼンダニの駆除薬は強力で、適切な期間、適切な治療を行えば、根絶することは難しくない。 ただし、感染猫の生活環境には耳ヒゼンダニの卵や幼虫などが多数残されているから、感染猫の治療と同時に、室内の掃除、猫用マットや毛布などの洗濯や煮沸消毒などを丹念に行うこと。先に述べたが、多頭飼いで同居の猫や犬がいる場合、並行して彼らの治療を行うことも大切だ。「もうかゆがらないし、耳垢もたまらないから」と、途中で治療を中断したり、室内の掃除を手抜きしたりすれば、しばらくすると、愛猫の耳の中は耳ヒゼンダニがひしめいているかもしれないのである。 なお、ダニの感染状況がひどくて、外耳道の奥深くまで洗浄した時に、洗浄液が鼓膜の内に入って平衡感覚の鋭い猫がその平衡感覚を狂わせてしまい、「斜頚」と言われる、首が曲がった状態になることもある。またその時に、中耳炎を患って、猫の目の働きをつかさどる交感神経に障りが出て、片方の瞳だけが収縮したり(縮瞳)、まぶたが垂れたり、瞬膜(猫などの動物のまぶたの内側にある、眼球を保護する膜)がはみ出てきたりする「ホルネル症候群」になるケースもまれにある。 |
【予防】 早期発見・治療と生活環境の改善、室内飼いの徹底 |
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耳ヒゼンダニ感染の防止には、飼い始めの子猫期に動物病院でよく検査してもらい、もし感染していたら、早めに根絶を図ること。また、ケージやマット、毛布などを熱湯消毒するなど、生活環境の改善を心掛けることも不可欠だ。 もう一つ重要なことがある。猫の場合、家の外に出て、感染源となる野良猫に接触したり、野良猫の縄張り、生活圏にまき散らされた耳ヒゼンダニが体に付着したりして感染することも少なくない。そのような感染機会をなくすには、子猫の時から室内飼いに徹すること。外出自由の猫は、交通事故や猫同士のケンカ、命にかかわるウイルス感染の恐れもある。愛猫がどうすれば室内で安全に健康的に暮らせるかを考え、実践してもらいたい。 |
*この記事は、2004年6月20日発行のものです。 | |
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