ノミに苦しむ
ノミの話はよくご存じの方が多いかもしれないが、これからがシーズンの本番。
もう一度、ノミのあれこれについて、復習してみませんか。

ノミ増殖のメカニズム

イラスト
illustration:奈路道程

 

 なぜ、ノミ被害はこれほど多いのか。
 ノミは、いったんネコや犬のからだに取りつけば、ネコや犬の皮膚の表面が終(つい)のすみかとなるし、ネコや犬のからだで産卵した卵が落下したところは、すべて卵から幼虫、サナギへ変態する理想的な隠れ家となる。いわば、ネコや犬の生活環境を丸ごと活用して、日々、子孫の繁栄をはかっているわけである。
 成虫となれば、ノミはせいぜい数週間から数カ月の命だが、そのあいだ、ほとんど毎日卵を産み続け、一匹の雌ノミが短い生涯に産む卵の数は、少なくとも何百、多ければ、何千になるかもしれないという。だから、ネコや犬のからだに暮らす雌ノミの産んだ卵は、毎日、マットやカーペット、ふとんやソファの下、ベッドの下、廊下のすみや押入などにボロボロとまき散らされ、わずか数日で孵化(ふか)して幼虫になる。幼虫は暗いところへ移動して、成ノミたちの糞や脱皮殻、ネコ、犬や人のフケなどを食べながら成長し、十日前後で繭(まゆ)をつくり、サナギとなる(血を吸う親ノミの糞は栄養価も高い)。
ノミのサナギは、ふつう、数日から十日ぐらいで羽化し、そばを通りかかったネコや犬に飛びついて、その皮膚の表面で暮らしだす。わずか雌ノミ一匹から数百、数千の卵が産みだされ、それも数週間で成虫になるのだから、いくらノミ取りをしても、多勢に無勢。さらに、ノミは、サナギのまま、ときには何カ月も時をすごし、動物が近くを通るのを待つというから、ネコや犬のからだに暮らすノミたちを退治するだけでは、無数に育つ子孫を一掃することはむずかしいのである。

ノミアレルギー性皮膚炎
   ノミ被害でことに深刻なのは、ネコ・犬ともにアレルギー性皮膚炎である。犬のページでもふれたが、動物のからだには、病原菌などの「異物(抗原)」が体内に侵入すると、それをやっつける物質(抗体)が活躍して、からだを守る「免疫」システムが備わっている。しかし、なんらかの原因で、ふつう、ネコや犬のからだにそれほど実害をおよぼさない物質に対して、「免疫」システムが過剰に反応することがある。それが「アレルギー」である。それ(抗原)がノミの唾液や抜け殻などの場合、体表に赤やピンクのブツブツができ、それを掻きやぶると、赤くただれたり、かさぶたができたりして、耐えがたいほどにかゆくなる。ノミの大発生などをきっかけにアレルギー性皮膚炎になることが多いが、いったんアレルギー体質となると、わずか一、二匹ノミがたかっただけで、皮膚炎がひどくなる場合もある。
 アレルギー性皮膚炎は、いろいろな物質が要因となって起こるため、皮膚炎治療の第一歩は、原因物質をいかに特定するかである(食べ物などの場合、とてもむずかしい)。ノミがいつきやすいのか、あるいは、ネコや犬がなめたり、かんだり、後足で掻いたりしやすくて、皮膚の荒れがひどくなるためか、症状のひどい個所は、ネコや犬の背中から尻尾の付け根にかけて、あるいは首筋などがことに多い。かゆみ、ただれなどを癒すことが大切だが、なによりも、アレルギーの引き金となるノミ退治が治療の基本である。

ノミ退治の秘訣
   最近は、ノミ退治の製剤も、効果的なものが何種類も出まわっている。殺虫剤では、首輪タイプやスプレータイプ、首筋に滴下するスポットタイプなど。スプレータイプなら速効性が高いが、それ以外でも、半日から一日ぐらいで効果が出始める(有効期間は、数週間から数カ月ともいわれる)。つまり、体内に取り込まれた殺虫剤が皮膚の脂肪部分に吸収され、脂(あぶら)とともに毛穴から少しずつ分泌されて、ネコや犬のからだに広がっていき、ノミを退治する。首輪タイプも、粉末やガス状の薬剤が空気の流れによって表皮に広がり、やはり皮膚の脂肪部分に吸収され、脂とともに分泌されていくという。もっとも、体質的に乾燥肌のネコや犬は、脂分の分泌が少ないので効きが悪く、このごろは、脂肪酸をふくんだノミ取り首輪も市販された。
 もっとも、これらの殺虫剤タイプは、ネコや犬のからだをすみかとするノミの成虫を退治するのに効果的だが、室内のあちこちにまき散らされた卵や、それから孵化した幼虫、サナギには効き目はない。そんな、無数にいるノミの「予備軍」退治をめざすのが、「昆虫発育阻害剤」である。これはノミの発育のプロセスに打撃を与えるバイオテクロノジーから生まれた薬で、もう周知のことかも知れないが、念のためにふれておこう。
 ノミの幼虫は、卵から孵化するとき、みずからのキバで内側から卵の殻をやぶる。しかし、ネコや犬が昆虫発育阻害剤を服用していると、その血を吸った雌ノミの卵には、殻をやぶるキバや自分の殻の素となる「キチン質」が形成されなくなる。結果、いかに雌ノミが卵を産んでも、幼虫は孵化することができず、死滅する。卵から幼虫、サナギ、成虫へのサイクルは、ふつう、数週間以上だから、この「昆虫発育阻害剤」を服用すれば、数カ月のうちに、ノミの成虫は急激に減ってくる。
 しかし、薬には有効期限がある。この薬の効力がなくなったころに、また、戸外でネコや犬のからだに飛び移った新たなノミたちが室内暮らしを始めたら、また、どんどんと増殖する。ちょうどピルのように、定期的に服用しないと、効果が持続しない。
なお、ノミはからだの弱った、病気がちのネコや犬に付きやすいから、ノミ退治ばかりにかまけず、愛猫・愛犬の心身の健康維持をはかることが大切だ。

*この記事は、2001年5月15日発行のものです。

監修/山尾獣医科病院 院長 山尾 信吾
奈良市押熊町2202の8 TEL 0742-48-2501
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