尿道づまり
オスネコの泣き所を考える
お宅のネコ、もし男の子なら、オシッコの出具合はどうですか。 このごろ何度もトイレに走る。砂場でもじもじすることが多いというのなら、かかりつけの動物病院に相談してください。 ほんとうに尿道がつまっていたら、余命2日である。
監修/北川動物病院 院長 山村 穂積

オシッコが出なくなれば

イラスト
illustration:奈路道程

ネバネバしたゼリー状の結晶がつまった尿道。
写真

 舌をかみそうな名前だが、猫下部尿路疾患(LUTD)とは、オシッコが出にくくなったり、尿道がつまったり、血尿が出たりする泌尿器関係の病気をまとめて名づけたものである。これまで一般的にFUS(尿閉症候群)と呼ばれてきたが、近年、獣医学上の定義に関わる議論から、こう呼ばれるようになってきた。ここでは、最も問題の多い尿道づまりに話を限ることにする。
 病名のことはともかく、オシッコが出なくなれば、一大事。わずか2日、48時間であの世に行く。
 尿道がつまる病気にかかるのは、ほとんど全部がオスネコだ。原因は、大半が食事管理のミスによる。キャットフードを食べすぎると、フード中のミネラル(マグネシウム)がボウコウのなかで結晶化して、ねばり気のある砂粒状のストラバイト結晶(リン酸アンモマグネシウム)となる。このネバネバした結晶が排尿時に尿道の先端部分にたまり、目づまりを起こすわけである。
 ボウコウは、なんとしても尿を体外に出そうとして水圧を上げる。そうすれば、結晶が先細の尿道の先端部分に押し込められ、さらに固くつまってしまう。こうなれば、一刻も早く病院に駆け込んで、ペニスの先をしぼってネバネバした結晶を絞り出してもらうか、トムキャット(オスネコ)カテーテルを尿道に入れて開通させなければ、急性腎不全などで命を落とす。
 いつも一緒に生活しているのならともかく、ネコのオシッコの具合がいいかどうか、ふだんから心がけている飼い主は多くない。丸1日ほどして、「どうもおかしい。便秘ではないか」といって連れてこられるケースが少なくない。そうなれば、ほんとうに時間勝負でネコの運命が決まるのである。

食生活を改める
つまった結晶を絞り出すなど、48時間内に尿道を開通させないと命を落とす。
写真
 問題は、食事の与え方。
 いつもお皿にドライフードを山盛りにしていれば、ネコは日に何度も食事をする。ドライタイプは、ウェットタイプに比べて、カロリー分の比率が低い。だから、大食漢でなくとも、食べる回数が増える。自然、マグネシウムの摂取量が増加し、結晶化の危険性が高くなる。
 そのうえ、困ったことがある。尿中のストラバイト結晶は、尿が酸性なら結晶化しにくく、アルカリ性なら結晶化しやすくなる。ところがネコがいつも満腹状態だと、胃酸の分泌が絶え間なく、体液のアルカリ濃度が高いまま。食事回数が多くなれば、結晶化がさらに加速する。おまけに食事量が増えれば便の量も増え、体内の水分が便に吸収されやすい。オシッコの濃度がさらに高まる、という悪循環におちいるわけである。
 それにオスネコは、自分の縄張りにオシッコをかけてまわる習性がある。だからオシッコを遠くに飛ばすために、尿道の元が太く、先が細くなっていて、不純物がつまりやすい。なんとも因果なことである。
 といっても尿道づまりは不治の病いではない。
 病気の予防、あるいは、再発防止には、飼い主がネコの食事管理を改善し、食事時間をきちんと朝夕2回に決め、マグネシウム分の少ないフードを与えることが一番だ。それだけで状態はぐんと良くなっていく。
 でも人間(もちろん飼い主のこと)、なくて七癖(くせ)。一度身についた習慣はなかなか治らない。つい、留守中、お腹を空かすとかわいそう。今日は遅くなるから、フードを多めに入れておこうかな。この子はこのキャットフードが好きだから、と、両手いっぱいの言い訳を積み上げて、元の食事、元の習慣に戻ってしまいがちだ。ネコにとっては愛敬ですまされることではないが、ヒトの思考、行動は、どこか形状記憶合金のようなところがあり、何度悔い改めても、元に戻る。

最後の手段は「性転換」
ペニスカットの手術後。多少結晶が多くてもつまることはない
写真
 では、どうすればいいのか。
 残る手段は、外科手術。尿中にストラバイト結晶ができても、尿道先端につまらないように、ペニスごとカットしてしまう方法である。去勢して、ペニスを取り除き、女の子のようにヴァギナをつける。気の毒だが、命には代えられない。オシッコのとき、多少結晶が多くても、尿道の先端が切断され、太くなっているから、つまることはない。
 当世、伝染病やケンカ、交通事故の予防をかねてオスネコを去勢することもめずらしくない。テレビをみれば人間だってニューハーフ全盛である。飼いネコが同じ道をたどって悪いわけはない。何よりも命が大事である。
 ついでに言えば、血尿は、オスに限らず、メスネコにも起こる。原因はボウコウからか、腎臓からの出血かどちらかだが、腎臓からのケースは少ない。また、犬の場合、尿道結石で苦しむケースもあるが、ネコはあくまで、ネバネバした砂粒状の結晶が中心で、結石はほとんどない。
 いずれにしろ、泌尿器官に関する病気は、ひとつ間違えば大変なことになる。予防のためにまず、毎日の食事管理や健康管理、さらにはネコとの付き合い方を見直すことを忘れるべきではない。

*この記事は、1996年3月15日発行のものです。

●北川動物病院
 東京都板橋区南常磐台
 Tel (03)3956-3663


犬猫病気百科トップへ戻る
Copyright © 1997-2009 ETRE Inc. All Rights Reserved.
このサイトに掲載の記事・イラスト・写真など、すべてのコンテンツの複写・転載を禁じます。