嘔吐
嘔吐を引き起こす原因は様々、まず原因究明を
ネコの嘔吐にもいろいろある。毛玉を出すためにもどす生理的なものもあれば、とくに注意が必要な重大な病気をきっかけに起こる嘔吐もある。 日頃からじっくりとわが家のネコの嘔吐の様子を観察してみよう。
監修/赤坂動物病院 院長 柴内 裕子

嘔吐の原因

イラスト
illustration:奈路道程

 

 嘔吐は、胃の中の物を強制的に口から出すための反射的な作用である。胃、腸、肝臓や腎臓、脳や耳の器官のトラブルなどが原因で、脳の嘔吐中枢を刺激するために起こる。
 具体的には、直接胃の壁を刺激するような毒物や不消化な物を飲み込んだり、各種の消化器の炎症。腸が詰まったり、尿毒症や肝臓疾患などで全身の血液の内容に問題があるとき。また強い臭いを嗅いだり、頭部を打ったり、恐怖などのストレスを受けたときなどにも起こり、簡単に診断は下せない。

嘔吐と間違いやすい吐き出しと咳
   吐き出しは主に食道の問題で、食物が胃に入る前に吐き出しているものである。多くの場合、食物はベトベトした唾液に包まれ、未消化で時にはネコの食道の型そのままの棒状をして出てくる。
 咳は、喉や気管、肺などに原因があるのでふつう食物は出てこないが、強い咳に刺激されて嘔吐してしまうこともあるので、日頃からネコの動作や出た物を観察しておくことが大切だ。

刺激による生理的な嘔吐
   ネコは肉食動物として、腐敗した肉や骨、昆虫やげっ歯類を食べたり、セルフグルーミングによって毛玉を取り込んだり、糸やビニールなどの異物を飲み込むと、防御反応としての嘔吐をする。このようなとき、ネコは胃壁を刺激する草などを食べて嘔吐をしやすくする。こうした生理的な嘔吐は、原因が除かれればその後は元気を回復し食欲も元に戻るのがふつうである。
 毛玉による嘔吐は、春先から初夏にかけての換毛期に多く見られるが、老齢のネコの場合は注意が必要だ。毛玉を上手に吐けなかったり、排泄できないために起こる消化器障害や度重なる嘔吐による脱水などが、胃疾患等を引き起こすきっかけになってしまうからである。それを防ぐには飼い主が毎日、十分なコーミングをして脱毛を取り込まないように手助けしたり、毛玉を吐いたり、排泄をしやすくする薬などを与えることが大切だ。
 また若いネコの場合は、胃の中に回虫が入り、その刺激で嘔吐をすることがある。
 このような生理的な嘔吐でも、吐く回数や吐き出した物、その後の具合を注意深く見て、回復が悪いと思われたら直ちに診察を受けるべきである。

急性胃炎
   生理的な嘔吐も急性の胃炎の原因の一つになるが、ネコはその習性上、犬に比べて遊んでいた玩具などを飲み込むことは少ない代わりに、大変に清潔好きなため、体や足の裏に付いた汚物や除草剤、肥料、ペンキなどを取り除くために懸命に舐(な)める。それによって取り込んだ化学物質による中毒や急性の胃炎が多発する。
 また、ネコのウイルス性の感染症である猫汎白血球減少症(パルボウイルス)は、病気の進行も早く死亡率も高い病気だが、その初期から急性な嘔吐が見られるから、注意が必要である。この病気は、ワクチンによって防ぐことができるので、必ず定期的な接種をしておくこと。
 急性胃炎の症状としては、多くの場合突然の激しい嘔吐が見られ、何回も繰り返して吐いていると吐物の中に血液が見られたり、腹痛を引き起こしたり、元気や食欲の衰えなどが見られる。

慢性胃炎
   ネコの慢性の胃炎は、急性の胃炎に比べ発生は少なく、急性の胃炎の繰り返しや、長期に食べ続けた食物アレルギー、全身性疾患等が原因となる。そしてこれらの胃炎の多くは免疫に関係した反応を起こして複雑な経過をたどる。慢性胃炎の症状は多くの場合、外見的には健康そうでときどき吐くといった状態が多く、内容は様々。また長期間に体重の減少が見られることがある。
 どちらにしても原因を除くための正しい診断と治療が必要だ。それは全身の症状を知るための血液検査、単純レントゲンやバリウム造影、さらに内視鏡による所見や組織検査である。家庭でできる治療としては、食事の内容と与え方。日頃元気なネコが吐いたのであれば、嘔吐の直後は水も食事も止め、一定時間後に少量ずつ回数を多くして与えることなどで様子を見る。続けて嘔吐するようであれば、吐いた時間と吐物の内容や色、量などを観察して診察を受ける。
 嘔吐は下痢と同様に体から水分を多量に失うので、子ネコや老齢のネコではとくに注意が必要だ。嘔吐を軽視しないで早期に輸液治療等を受けて、大事に至らないよう心がけたいものである。

*この記事は、1996年7月15日発行のものです。

●赤坂動物病院
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