パルボウイルス 家ネコたちのあいだでは、ワクチン接種が普及して、パルボウイルスに命を取られるケースが減ってきた。 しかしネコ好きは、捨てられた子ネコを見捨てられずに連れ帰ることも多く、ウイルス感染の脅威はなくならない。 監修/千里ニュータウン動物病院 院長 佐藤 昭司 |
パルボウイルスとネコ |
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ネコに取り付くパルボウイルスの存在は、1930年前後から報告され、かつては「ネコジステンパー」とも呼ばれていた。そのためワクチン開発は犬より早かった。以前なら、たとえ飼いネコの場合でも、大怪我か重病以外、ほとんど動物病院と無縁に暮らすことが多かったが、近年は、子ネコのときから通院するのが一般的になり、パルボなどのワクチン接種の機会も増えてきた。たぶん、そのためだろうが、子ネコがパルボウイルスの感染症で亡くなるケースもかなり減っている。 といって、ワクチン接種前にウイルス感染する機会があるために、安心はできない。ことに生後数週間、数ヵ月の子ネコは体力に乏しく、神経質で環境の変化に弱く、下痢などをしやすい。可愛いからと四六時中「猫可愛がり」をすれば、睡眠不足やストレスなどで体が弱る。もし、免疫力が低下すれば、そんな機会を逃さずに猛威をふるい、あっと言う間に危篤状態になる。 パルボウイルスによって、ひどい腸炎を起こせば、嘔吐(おうと)、下痢、血便の症状が続く。体力の乏しい子ネコは、激しい脱水症状や出血に耐えられず、死の淵をさまよう。骨髄に感染すれば、白血球の造血作用に悪影響が出て、白血球が減ってゆき、体が無防備状態になって、パルボをはじめいろんなウイルス、細菌が体のあちこちを蝕(むしば)み、泥舟が水に沈むように死んでしまう。 |
パルボに苦しむ子ネコを救うために |
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では、パルボウイルスによるひどい腸炎などに苦しむネコや犬たちにどんな治療法があるのか。無念極まりないが、パルボウイルスを直接退治する薬はない。そのため、対処療法を行って動物たちの免疫力の回復を待つ(最近では、インターフェロンなどを用いた免疫療法も試みられている)。 下痢がひどく、脱水症状が激しいのなら、水分や電解質を点滴して補給する。もちろん、蛋白質が不足していれば補給する。骨髄に感染すれば白血球が減り、腸炎なら腸の粘膜がやられて、細菌類が猛威をふるうから、強力な抗生物質などを投与する。このように、ネコや犬たちの水分・栄養補給、免疫強化などを手助けして、彼らが少しでも体力を回復し、みずからの「免疫」力を高めて、ウイルスによるさまざまな感染症に打ち勝つのを見守るわけである。 「Dog Clinic パルボウイルス」でも述べたが、元気な母親から生まれ、母乳を通して「移行抗体」がしっかり根づいた丈夫な子ネコなら、たとえウイルス感染していても、発症しなかったり、軽い症状で済むことが多い。どうしても、発育状態のあまり良くない、虚弱な子ネコがパルボウイルスの餌食となってひどい症状に苦しみやすいから、いったん発症すれば、懸命に治療・看護を行っても、治らない場合も少なくない。 だから、飼い始めのときから、動物病院でワクチン接種の相談を受け、子ネコの健康状態に十分気をつけることが大事だ。活発かどうか。下痢がちか。眼脂(めやに)が出やすいか。口の中が乾いていないか。毛づやはどうか。皮膚に弾力があるか…。何か変わったこと、良くないそぶりがあれば、すぐに動物病院で検診を受けること。そうして、まだ体力、免疫力の残っているうちに、治療を開始することが必要だ。 |
子ネコとウイルス感染の脅威 |
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ネコ好きの家庭は、2,3匹ネコのいるところが少なくない。もし、いちばん小さな子ネコがパルボウイルスにやられたら、すぐに他のネコたちにも伝染する。室内のあちこちを強力な塩素系消毒薬(新しいタイプのものがあるので病院で相談のこと)、殺菌剤で消毒し、同時にそれぞれのネコたちを隔離し、ウイルス感染の広がりをくい止めなければならない。パルボウイルスの感染力は半年以上も続くから、ワクチン未接種ネコへの脅威は簡単になくならない(たとえ、成猫でもウイルス感染すれば激しい症状に苦しむことがある)。 とにかく、新顔の子ネコがわが家にやって来たら、その足で動物病院に行き、ワクチン接種の相談を行うなどの予防策が不可欠なのである。 とくにネコの好きな人は、か弱い捨てネコを見つけたら、なかなか見捨てることができづらい。しかし、捨てネコには、生後間もなく、パルボウイルスにかぎらず、ネコ白血病ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(ネコエイズ)、あるいはネコ伝染性腹膜炎や呼吸器疾患をひき起こすウイルスに感染しているケースが少なくない(なかには胎盤感染もある)。 またペットショップなどからわが家にやって来た場合も、すでにどこかでウイルス感染しているケースもなくはない。「衝動飼い」をできるだけ避け、子ネコの健康状態、(お店なら)健康管理方法、子ネコの飼い方、病気の予防・治療方法など、あれこれ事前にチェック、学習してから、新たな子ネコを迎え入れるかどうかを慎重に決めるべきだ。 |
*この記事は、1998年5月15日発行のものです。 | |
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