鎖 肛 |
【症状】 生まれたばかりの子猫の肛門が閉じたまま便が出ず、 おなかが膨れ、食欲がない |
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ごくまれに、生まれつき肛門が閉じたままの子猫(※子犬)が誕生することがある。この病気が「鎖肛」である。 生後まもない子猫の便が出ない。また、食欲がなく、おなかが異様に膨らんでいたり、吐いたりする。「おかしいな?」と思ってお尻を見ると、あるべきはずの肛門が閉じたまま。飼い主は、大慌てで病院に駆け込むことになる。 あるいは、おなかの中で、直腸が肛門ではなく、膣や尿道につながっていて、局部がいつも汚れている。なぜだろう?とよく見ると、肛門が閉じ、メスなら膣から、オスなら尿道から、ドロッとした便様のものが流れ出ていたりする。 これらが、飼い主が発見しやすい鎖肛の諸症状である。 言うまでもなく、動物は口から食べ物を摂取し、胃腸で消化し、必要な栄養分を吸収して、不要・有害な成分を尿や便として体外に排せつして生きている。尿が出なければ、わずか一、二日で命が危なくなる。一方、不要な食べかすが中心となる便は何日か出なくても、直ちに死に至ることは少ない。しかし、いわば糞詰まり状態で食欲がなくなり、体力に乏しい子猫などではすぐに一命にかかわりかねない。それが普通の便秘ではなく、肛門が閉じたままなら大問題である。現実には、症例はごくわずかだが、もしかしたら、飼い主が発見する前に衰弱死などで死亡しているケースが少なくないかもしれない。
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【原因とメカニズム】 先天的異常によって、胎内での発育中に問題が発生 |
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鎖肛は、猫だけでなく、犬やその他の動物にも見られる先天的疾患の一つである。 子猫や子犬は、母親の子宮の中で、受精卵から発生・発育して、徐々にそれぞれの動物種にふさわしい体、組織、器官を整えていく。例えば、食物の消化・吸収と排せつにかかわるところの、口から食道、胃、腸、肛門に至る消化器系の器官も、発育の段階に従って、だんだんその姿を整えていく。そのなかで、「鎖肛」に関連するのは、消化器系の末端となる直腸と肛門にあたる部位だ。 当初、直腸の元になる器官は、おなか側にある膀胱・尿道・膣などの尿生殖器系器官とつながっている。やがて、その中間にある組織が発達していって「会陰」となり、両方の器官を完全に分離する。そして、直腸は、外界との境界となる「肛門膜」と接続し、その肛門膜が破れて、「肛門」が開口するのである。 ところが、胎児の発育の過程で、何らかの要因(先天的異常)によって、正常に肛門が開口していないことがある。それが「鎖肛」で、次のように分類される。(右ページの図参照) ●「I型」…直腸の末端が正常に肛門膜につながっているのに、肛門膜が破れず閉じたまま ●「II型」…肛門膜が厚すぎて肛門が開口していない ●「III型」…直腸の末端が肛門膜の手前で閉じたまま ●「III型変形」…直腸の末端が肛門膜ではなく、膣や尿道とつながっている |
【治療】 「鎖肛の種類に適合する外科手術を選択する |
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治療にあたっては、まず、レントゲン検査によって鎖肛の状態を詳しくチェックして、どのような外科手術が必要かを検討する。 もし単に肛門膜が開通していないだけの鎖肛I型やII型なら、外側から肛門膜を切開して、肛門を整形する。括約筋が存在して、術後が順調なら、やがて排せつ機能を回復する。括約筋がなければ、垂れ流し状態となるため、日々のケアが必要となる。III型の場合で肛門膜が厚すぎれば、開腹手術が必要になることもある。 直腸の末端が閉じていて、直接肛門膜とつながっていない鎖肛III型の場合、肛門膜の切開手術と同時に開腹し、直腸の末端を引き伸ばし、端部を切開して、肛門膜に接続しなければならない。 こうした外科手術で、特に開腹手術を伴なう場合に、注意すべきことがある。生後あまり日数がたっていない鎖肛の子猫は、長時間麻酔をかけて手術をすれば、それだけで生命の危険にさらされやすいことだ。また、血管が細く、点滴のための血管確保が難しい。いかに負担をかけず、いかに短時間で手術を済ませるかがきわめて重要になる。 だから、鎖肛III型の変形といえる、直腸の末端が膣や尿道につながっている場合には、まず肛門膜を切開し、直腸の末端をそこに接続する手術だけを先行させ、後日、直腸と膣や尿道とのつながりを閉鎖する手術を行うことになる。 いずれにしても、幼い子猫は体力がなく、免疫力も不十分なため、術後、合併症を起こして一命にかかわる恐れも少なくない。術後の看護がきわめて重要となる。 |
【予防】 子猫が生まれたり、子猫を拾ったりしたら、 念のため、まず肛門の状態をチェックする |
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鎖肛は、先天的異常による疾患のため、予防策はない。自宅で子猫が生まれたり、また、道端や公園で生後間もない子猫を拾ったりした時は、まずお尻をチェックして、肛門が開口しているかどうかを確かめていただきたい。万一、鎖肛なら、すぐに動物病院でよく相談することだ。 ※「鎖肛」は猫だけではなく、犬にも同様に起こる病気です。 |
*この記事は、2004年1月20日発行のものです。 | |
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