アレルギー性皮膚炎
地球環境の悪化のためか、あるいは人間化して、高環境、高栄養、高衛生の世界になじみすぎたためか、犬はネコに比べてアレルギー性皮膚炎にかかる度合いがとても多い。
監修/岐阜大学農学部家畜病院 教授 岩崎 利郎

アレルギーはなぜ起こるのか
イラスト
illustration:奈路道程
 犬やネコ、人間などの動物の体に何か異物(抗原)が侵入すると、ただちにそれに立ち向かう物質(抗体)がつくられて、その異物をやっつけようとする。これが「免疫」による抗原抗体反応である。しかし、普通の犬やネコや人間には無害な物質が抗原(アレルゲン)となって、過剰に抗体がつくられ、かえって体に有害な場合がある。それが「アレルギー」である。そのアレルギー反応によって、体の表皮に発疹(赤やピンクのブツブツ)ができたり、赤くただれたり、かさぶたができたりして、無性にかゆくなる症状が「アレルギー性皮膚炎」である。
 犬の主なアレルギー性皮膚炎には、「アトピー性皮膚炎」「ノミアレルギー性皮膚炎」「接触皮膚炎」「食餌性皮膚炎」の4種類があげられる。犬がいちばんかかりやすいのは「ノミアレルギー性皮膚炎」(詳しくは、「Cat Clinic アレルギー性皮膚炎」で述べる)だが、最近「アトピー性皮膚炎」の増加が目立っている。

「アトピー性皮膚炎」の傾向と対策
   現代人の持病としてすっかり定着したのが「アトピー性皮膚炎」だが、犬でも同様でスギ花粉やダニなど、アレルゲンとなる物質はたくさんある。
 最初は、犬によっては、春のスギ花粉、初夏から夏のダニなど、季節病の傾向があるが、アレルギー体質の犬は、いつの間にか慢性化して年中、アレルギー症状を起こす場合もある。「アレルギー性皮膚炎」は、顔や耳、脇の下、内股、足先などが赤くなってかゆくなるが、困ったことに根治させる治療法がない。副腎皮質ホルモンを使えば、症状はきれいにおさまるが、いつも使えば副作用がこわい。食餌療法で必須脂肪酸を食べさせれば、かゆみが減ることがある。またシャンプーで体に付いたアレルゲンを洗い流す方法もある(シャンプーで皮膚が荒れれば逆効果になる可能性もある)。また皮膚がカサカサの乾燥タイプだとかゆみが増すので、スキンケアクリームを塗って皮膚を守ってあげるのもいい。さらに花粉が原因であれば、花粉の多い季節はなるべく戸外に出さないこと。ダニならダニの駆除、ホコリが原因なら室内の掃除を徹底すること。犬小屋なら、定期的に熱湯で洗い、天日に干してあげることが大切である。
 なお、近年、人間社会でアトピー性皮膚炎が増えているのは、回虫などの寄生虫が極端に減ったからではないか、という説がある。詳しい話は省くが、「清潔」「衛生」「健康」が行き過ぎると、力の弱い慢性疾患が増えるといえるかもしれない。

「接触皮膚炎」について
   先にも言ったように、「ノミアレルギー性皮膚炎」については「Cat Clinic アレルギー性皮膚炎」でふれる。次は「接触皮膚炎」について。これは、その名の通り、何か体にふれた物が原因で起こる。人間なら、洗剤や化粧品、アクセサリーや腕時計などがある。
 犬の場合は、シャンプー、室内の床材の磨き剤、犬小屋や食器の素材(プラスチックなど)が原因となりやすい。床材が原因なら、毛の薄いお腹の当たり。食器なら、口のまわりがかぶれだす。最近はプラスチック製の食器でもかぶれにくい製品が多くなったが、気になる方は、ステンレス製か陶製の食器に替えたほうが無難である。床材の磨き剤なら、愛犬のくつろぎ場所に敷物を敷いてあげること。シャンプーの場合なら、シャンプー液を水に薄めて使い、シャンプー後は十分にぬるま湯をかけて液を洗い流すこと。またシャンプー洗いの回数を減らして、ふだんは濡れタオルでふいてあげる習慣にすればいい。
 とにかく、「接触」皮膚炎だから、犬の体と原因物質をいかに離すか、を心がけるべきである。

原因物質究明の大変な「食餌性皮膚炎」
   「食餌性皮膚炎」は厄介である。ペットフードの成分表をみてもわかるように、たとえペットフードだけを与えていても、食品のなかの「何」が原因かを見つけるのが大変だ。まず、いままで食べたことのない食餌に切り替える。そうして皮膚炎がおさまるのを待つ。
 それから慎重に、疑わしい食品を一品ずつ加えていく。牛肉はどうか。次は豚肉。その次はタマゴ、…。そんなふうに何週間、何カ月もかけて、犬も飼い主も獣医師もひたすら根気と忍耐で探索を続けなければならない。
 それだけの覚悟のない人は、肉類や食品添加物などの少ない「低アレルギー性」食に切り替えたほうがよい。
 はじめにも述べたが、アレルギー性皮膚炎になれば、奇跡的に体質改善ができないかぎり、完全に治る可能性はほとんどない。飼い主のできることは、アレルゲンとなる原因物質から愛犬をいかに遠ざけ、体の抵抗力をつけ、かゆみをおさえて苦痛をやわらげるか、である。

*この記事は、1997年5月15日発行のものです。



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