お産をする 「安産」の代名詞ともなった犬たちも、小型犬が増え、また、運動不足と「美食」の横行で「難産」に苦しむケースも少なくない。 監修/岸上獣医科病院会長 岸上 正義 大阪市阿倍野区丸山通1丁目6の1 TEL(06)6661-5407 |
犬の「安産」と「難産」 |
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illustration:奈路道程 |
愛犬が可愛い子犬を無事産んだときの喜びは、格別のものに違いない。 しかし、かつては安産の代名詞にもなり、気がつけば、縁の下で何頭も元気な子犬たちを出産していたものだが、このごろは、難産のケースも増えている。ひとつには、小型犬の増加による。犬は、もともと多産で、一度に五、六頭子犬が生まれても、特別話題になることはない。しかし犬が小型化するにつれて、胎児の頭数も減っていく。小型化すると、母犬に比べて胎児の体重比がぐんと大きくなって、産みの苦しみが増すうえに、胎児の数が減ると、胎児の体重も増えがちになる。小型犬は室内飼いが一般的で、運動量も少なく、反対に食餌や間食の機会も大きいので、基礎体力が弱く、太りがちのことも多い。さすがの犬たちも、「安産」ばかりといえない世の中になったのである。 もっとも、中・大型犬でも、室内飼いや散歩の機会が不十分だと、同様に基礎体力が弱く、太りがちで、近年の人間同様に微弱陣痛傾向が高まり、産みの苦しみが増している。 中・大型犬でも小型犬でも、わが家の愛犬にお産をさせようとするなら、まず、運動量を増やし、紫外線を十分に浴びさせ、食餌コントロールをきちんとおこなって、健康で、体脂肪の少ない、筋肉質の体をつくることから始めることが大切だ。 |
自宅ですべき出産の準備 |
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犬の妊娠期間は、7日×9週の63日といわれている。発情後、一週間で交配させ、やがて受精した卵子は卵巣から子宮に降り、着床する。妊娠の初めである。妊娠6週目ぐらいになると、お腹が大きくなってきて、母犬の食欲も増し、動きもにぶくなってくる。8週目が早産域で、9週目が満期産。人間の40週・280日に比べれば、犬の妊娠期間はずっと短く、あっという間にお産のときを迎える。 犬は、昨今の人間と違い、自宅出産が基本なので、飼い主がお産にのぞむときの留意点をいくつか述べる。 母犬は出産が近づくと、室内の物陰などで巣作りのような動作を始める。そうなると、家族はできるだけ家を留守にせず、夜、枕元にカゴを置くなど、交代で様子を見守ってあげてほしい。必要なものは、産湯の準備、へその緒を切るハサミと糸、子犬を取りあげるタオルをできるだけたくさん。いざ出産となれば、間隔をあけて、一頭ずつ生まれてくる。体外に出ると、母犬が尿膜と羊膜からなる袋をやぶって、子犬を外気にさらし、なめていく。もし、出産しても、袋をやぶかないようなら、すぐに飼い主が引きさいてあげること。取りあげた子犬は、産湯で洗い、よく乾かしておかないと、体が冷える。へその緒は、へそから1センチあまり残して糸で結び、切ること。また、順に生まれてくる子犬と後産(胎盤)の数合わせを忘れないこと。もし、後産が子宮内に残れば、おりものが長く続く。 |
自然分娩と帝王切開 |
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犬の赤ちゃんは、本来、前足を伸ばし、鼻先から、いわばダイビングスタイルで生まれてくる。万一、腕が前に突き出ず、後ろのほうに曲がっていれば、肩が産道につまって、難産になる。近くに熟練した獣医師がいれば、うまく前肢を引き出して、お産を助けてくれる。いわゆる逆子で、後足から生まれてきても、足先から出れば、問題はない。 もし、小型犬で、胎児の頭が骨盤の内径より大きいと自然分娩は不可能で、動物病院で帝王切開を受けなければならない。母体が小さく難産の可能性があるなら、出産予定日の3日前ぐらいに動物病院で検査を受け、レントゲン撮影で頭の大きさと骨盤の内径を測ってもらい、自然分娩できるかどうかを確認しておくべきである。また、胎児の数も明らかになる。 自然分娩でも帝王切開でも、無事、出産すれば、あと、気をつけるべきは、お乳が出るかどうかである。ふつう、おそくとも2時間ほど待てば、出てくることが多い。最近は、子育てに熱心でない母犬もいるので、飼い主が人工母乳で育てるケースもあるが、とにかく、初乳だけは必ず母犬から子犬たちに飲ます必要がある。よくいわれるように、初乳には、体の免疫力を高めるガンマ-グロブリンが大量に含まれるので、乳児を細菌感染やウイルス感染から守ってくれる。また、初乳には、子犬の胎便を排泄させる効果もある。なお、お乳に免疫力のあるガンマ-グロブリンが含まれるのは、出産後7日以内ぐらいという。 最後にくり返すが、愛犬の安産を願うなら、日頃から食餌に注意し、運動を十分させ、健康で筋肉質な体づくりをおこなうことが大切だ。そのうえ、肥満がちでは、卵巣のまわりに脂肪が付いて、排卵障害がおきやすく、不妊になりやすい。また、交配についても、初めての発情期で交配させない配慮がいる。あまりはやく妊娠すると、本来、体の成熟に必要な栄養が胎児の生育に使われ、母犬にも子犬にも悪影響をおよぼす可能性が高い。また、犬の発情は一般に一年に2回ほどなので、春・秋か、夏・冬になるが、夏場の妊娠・出産は負担が大きいので、避けるほうがいい。 |
*この記事は、2000年3月15日発行のものです。 | |
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