緑内障 緑内障は、白内障と並んで、犬もネコも人間もかかりやすい眼病の代表だ。 不幸なことに、適切な手術などの治療で視力が回復する白内障とちがい、緑内障になれば、いったん失った視野や視力はどんな治療でも回復不可能。 何よりも早期発見・早期治療が求められる。 監修/奥本動物病院 院長 奥本 利美 |
「高眼圧」から始まる「緑内障」 |
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illustration:奈路道程 |
緑内障とは、眼圧(眼球の圧力)が異常に高くなり、眼の奥にある視神経乳頭が圧迫されて視神経が萎縮しはじめて視野狭窄(きょうさく)がおこり、やがて失明するこわい病気である。光を屈折させる水晶体が白く濁っておこる白内障では、手術で水晶体内の濁りを取り除き、眼内レンズを入れれば、また視力が回復するのに対し、いったん緑内障となり、視野狭窄や失明になれば、どんな治療をほどこしても、よくて現状維持、視野や視力が元に戻ることはない。 では、緑内障をひきおこす「高眼圧」とは、どのような症状だろうか。 動物の体を構成する各部の組織細胞は、ふつう、血液の循環によって必要とする養分を受け取り、老廃物を取り除く。もちろん、眼球にもたくさんの毛細血管が走っている。しかし、レンズの役割を果たす水晶体や角膜などには、血管はなく、水晶体の周囲をとりまく毛様体で産生される「房水」が循環して養分を供給している。 前眼部を循環した房水は、角膜と虹彩(こうさい=瞳孔の開閉を行う薄膜)のあいだの「隅角(ぐうかく)」にある線維柱帯から静脈叢(そう)に吸収される。その「隅角」が狭くなったり、虹彩や毛様体などの「ぶどう膜」が炎症をおこして線維柱帯網が詰まり、房水が前眼部に過剰にたまっていけば、眼圧が高くなる。そうして、網膜でとらえた画像情報を伝える無数の視神経線維(人間の眼で約百万本)が一つの束になる「視神経乳頭」が圧迫されて視神経が萎縮しはじめ、視野狭窄や失明状態にいたり緑内障となるのである。 |
眼球の飛び出た小型犬は要注意 |
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緑内障−手術前 手術後 |
犬やネコは人間に比べて、眼球に占める角膜の面積がずっと広い。そのため、すり傷やひっかき傷などによって、虹彩や毛様体などの「ぶどう膜」に炎症がおこる確率も高い。そのような炎症によって「高眼圧」になり、さらに緑内障にいたることも少なくない。 とにかく、緑内障の一歩前である「高眼圧」になれば、眼の疲れや頭痛、めまい、吐き気などになる。しかし犬やネコは自覚症状が少なく、たとえそのような不調を感じても飼い主に訴えることもない。緑内障となり、視野狭窄が始まっても、幾分か見えているかぎりはいつも通りに駆け回っていることが多い。そのために発見が遅れ、かなり症状が進んで眼がしょぼつき、食欲が落ち、さらに失明状態になって動物病院へ連れてこられるケースが少なくないのである。急性緑内障なら、眼圧が急激に上がって角膜が濁りだし、わずか数日で失明することもある。 だから、早期発見・早期治療というが、何よりもむずかしいのが「早期発見」である。ことに「高眼圧」は、シーズーやパグ、マルチーズなど眼が大きく飛び出し気味の小型犬に多いため、それらの犬種と暮らす飼い主は定期的に眼圧検査を受けて、眼圧の状態を把握し、必要なら、眼圧をコントロールする治療を受けることだ。 |
いかに「眼圧」をコントロールするか |
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一般的に正常な眼圧は20mmHgまで。それ以上になると高眼圧症となり、眼圧が急激に高くなれば、角膜がスリガラス状に白く濁ってくる。 高眼圧の症状が軽い場合は、高浸透圧性の糖分を含んだ液を静脈に注射し、利尿作用を高めて房水の排出を助け、眼圧を下げる。しかし眼圧が異常に高ければ外科手術によって、「隅角」に穴を開け、房水の流路を確保して、眼圧を下げなければならない。あるいは、「毛様体」をレーザ光線で光凝固して、房水の産生を抑制する手術もある。先にもふれたが、不幸なことに、緑内障は、視神経の萎縮によるため、手術で眼圧を下げることができても、いったん視野狭窄や失明状態となれば、視野や視力を回復することはできない。 さらに犬やネコの眼は、人間よりもずっと線維素ができやすい(さらに切開手術のあとは、傷口をふさごうとして、線維素がたくさんできる)ため、手術で開けた房水の流路に線維素が詰まりだし、手術後1ヵ月ほどで再びふさがるケースが多い。そのため、手術後もつねに検査して、定期的に流路の掃除をしたり、ひどくなれば再手術をほどこさなければならない。 つまり緑内障になると、たとえ手術が成功しても再手術がくり返し必要となるのである。動物病院で愛犬や愛猫が緑内障と診断されたら、その段階での視力障害の状況を確かめ、どんな治療方法もあくまで眼圧コントロールのためであり、失った視野や視力回復は不可能なこと、さらに手術後の定期的な検査や再手術の可能性について十分に理解して、治療にのぞむことが大切だ。 |
*この記事は、1998年9月15日発行のものです。 | |
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