てんかん

【症状】
体のけいれんや強直などの発作が、繰り返し起こったら…

illustration:奈路道程
 愛犬の、左右どちらかの前足か後足が、突然、激しくけいれんしたり、硬くこわばったり(強直)、顔面がぴくぴくとけいれんしたり、体を弓なりに反らしたり。あるいは、急に全身が激しくけいれんを起こしてバタリと倒れたり、時には発作時、失禁して、うんちやおしっこを垂れ流したりもする。こうした「てんかん発作」を”繰り返して“起こすのが、「てんかん」である。
 激しい発作が月に何度か、ひどい場合は、日に何度も起こって、飼い主がパニックになるケースも少なくない。
 てんかん発作には、大きく分けて、「部分発作」と「全般発作」がある。部分発作とは、右脳か左脳のどちらかに、突然、電気的興奮が発生し、右脳なら体の左半身の、左脳なら右半身のどこかがけいれんしたり、強直したりする。全般発作とは、脳の深い部位に電気的興奮が発生し、それが左右の脳に伝播して、意識不明状態で体がのけ反ったりしながら、一挙に全身けいれんを起こすものだ。
 もっとも、部分発作にも、意識のある状態で、なんらかの発作が起こる「単純部分発作」と、発作自体は全身けいれんを起こさない部分発作だが、意識が薄れるほどの「複雑部分発作」、さらには部分発作でけいれんや強直を起こすうちに、全身発作へと展開する「部分発作の二次性全般化」とがある。

【原因とメカニズム】
不明だが、「素因」のある犬がてんかん発作を起こしやすい
  てんかんは、厄介なことに、発作を繰り返すたびにさらに発作が起こりやすくなり、症状も悪化していき、ついには発作が休む間もなく起こって(重積状態)脳圧が上がったり、肺水腫によって呼吸が止まったりして、急死することも少なくない。
 統計的に、犬が百頭いれば、一、二頭がてんかん発作を起こすといわれるほどだが、一般に、名前ほどにはその実態がよく理解されていない病気である。
 従来、脳内に異常・障害が認められず、原因不明のものを「特発性てんかん」といい(一歳から五歳齢での発症が多い)、脳内部になんらかの異常・障害が認められるものが「症候性てんかん」といわれてきた。
 しかし、「症候性てんかん」には、脳腫瘍や水頭症、犬ジステンパーによる脳炎、あるいは肝臓につながる血管(門脈)の先天性奇形によって血中の有害物質が脳神経細胞に障害を起こしたりという、他の病気に起因して発作を起こすものがほとんどだ(一般に、発作を起こし始めるのが一歳未満なら犬ジステンパーや先天性疾患、五歳以上なら脳腫瘍や代謝性疾患などの確率が高い)。それら、他の病気に起因する進行性の脳疾患は、当然だが、本来の病気を治療しないかぎり、発作が軽減することはない。また、それらに「症候性てんかん」という病名を与えれば、飼い主が混乱、誤解するだけなので、むしろ「脳腫瘍」による発作などと説明されるようになってきている。
 一口で言えば、てんかんとは、原因不明のまま、脳内に、突然、異常な電気的興奮が発生することによって、繰り返してんかん発作を起こす病気なのである。
 もっとも、体質的に、てんかん発作を起こしやすい「素因」が発症にかかわると考えられている。ただし、素因があるからといって、すぐに発作が起きるわけではない。素因を持つ犬が、何か大きなストレスを感じたり、ペット用スナックなど化学添加物を多量に含んだ食べ物をたくさん食べたりすると、ちょうど底の浅い川から水があふれるように、発作が起こりやすくなるのである。

【治療】
病状を見極め、定期検査を行いながら、適切な薬治療法を継続する
   「発作だ!」と、飼い主が慌てて動物病院に愛犬を連れて行っても、すぐに治療に入るわけではない。てんかんは、脳内に病気があるわけではないので、発作の治まった愛犬を診断しても、病状が分からない。飼い主側が、どんな発作がどんな間隔で、どのように起こっていったのか、これまでの経過を冷静に、できるかぎり正確に獣医師に伝えることが治療の第一歩である。
 そのうえ、てんかん発作を起こす犬の三割ほどは、脳腫瘍や水頭症、犬ジステンパーなど他の病気に起因する脳疾患といわれており、血液検査やCT、MRIなどの画像診断によって、その他の病気による脳疾患でないかどうかを、慎重に見極めていかなければならない。
 他の病因が見つからず、てんかんと診断された場合でも、発作の臨床症状から、部分発作か全般発作かなどによって、治療の緊急度や投与すべき薬剤の種類や組み合わせも異なってくる。また、幾種類かある抗てんかん薬も、どれが、どれほど有効かは、試験的に数週間から数か月かけて、定期的に薬剤の血中濃度をチェックしながら投与して、一定の血中濃度にまで高めていかないと、判断が難しい。
 薬剤の血中濃度は、発作を抑制できる濃度がおおかた決まっている。しかし、すべての症例がその範囲内で発作がなくなるわけではない。ましてや、高い濃度で長期連用した場合、肝障害が生じてくる恐れもある。このような事態を事前にチェックするためにも、血中濃度と血液検査などを定期的に行っていく必要がある。
 このように、より効き目の高い薬剤を特定して、定期検査を続けながら、適切な薬治療法を行っていけば、約七割の症例で明らかな発作抑制効果がある。なお、治療の目安としては、一か月に一度以上の発作がある場合、薬剤の投与によって、三か月以上の間隔で一度の発作程度に抑えることである。

【予防】
ストレスの少ない飼い方と、化学添加物の少ない食生活を心がける
  てんかんは、普通、一歳から五歳ぐらいの間に、突然、発作を起こし始め、徐々に頻度も高く、症状も激しくなっていく。なるべく初期の段階で適切な治療を始めれば、発作もひどくならず、元気に生涯を送る犬たちも多い。もっとも、”原因不明“のため、的確な予防策はないが、先にふれたように、てんかんの素因を持っている犬がてんかん発作を起こしやすいのも事実である。
 もし、自宅の愛犬が一度でも原因不明の発作を起こしたことがあるならば、発作要因を高めないように、普段からストレスの少ない飼い方を心がけ(甘やかすと逆効果になる)、また、化学添加物の多いペット用スナックなどの食べ物を与えないよう、注意することが大切だ。

*この記事は、2003年8月20日発行のものです。

監修/渡辺動物病院 院長 渡辺 直之
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