ウンチを食べる
多くは好奇心から、病的な「食糞症」はごくわずか
飼い主にとってはショックな、愛犬がウンチを食べる行為。
犬にとってどんな意味があるのか? その対策は?

【原因とメカニズム(1)】
子犬が、普通の探索、遊びの一つとして、ウンチに興味をもつ
イラスト
illustration:奈路道程
 愛犬がウンチを食べる。
 そんな光景に出合ったら、飼い主は大きなショックを受けるに違いない。しかし、犬が「ウンチを食べる」からといって、いわゆる「食糞症」と呼ばれる病的なケースはごくわずか。遊び盛りの子犬が、身近に落ちている物をおもちゃ代わりにかじっている場合がほとんどである。
 犬は、何かを探り、確認する時、鼻でにおいをかぎ、舌でなめ、歯でかじる。だから、特に好奇心の強い子犬が、身の回りにある衣類やおもちゃ、食べ物、食器、家具、靴などをかじりたがるのは当然だ。そのうえ、犬は野生の時代、野山をうろつき、獲物となる動物を捕まえ、あるいは地面に残された腐肉や果実を拾い食いして生きていた。つまり“拾い食い”は犬にとって大切な“生活の知恵”でもある。また、食べ物以外の「異物」を飲み込んで(食べて)しまうこともよくある。
 さらに言えば、犬には、人間のように、ウンチやオシッコを、頭から汚いと見なす発想もない。だから、子犬が、退屈しのぎに、室内に放置されている自分のウンチに興味をいだき、つい、かじったり、食べてしまうのも、それほど突飛な出来事ではない。
 問題は、子犬の身近な環境の中に、子犬が排せつしたウンチが放置されたままになっていることだ。


【対策(1)】
ウンチを放置しない、食べさせない。一緒に遊ぶ機会を増やす
 

 子犬が探索や遊び、退屈しのぎに、ウンチを食べ物やおもちゃ代わりにくわえたりしている場合、身の回りに、そのような物を放置しておかないことが、ウンチを食べる習慣をなくす最も重要な対策である。
 そのためには、犬の“居住場所”と“排せつ場所”をはっきりと分ける。排便後、すぐにウンチを片付ける。また、もしウンチに関心を示してくわえようとしたら、その直前にしかって止める、などを必ず実行してほしい。制止するのが遅れ、万一、口にくわえた時はあきらめること。無理にウンチを口から取り除こうとすれば、犬が慌てて食べたり、“自分の所有物”を横取りされると思って反抗的になり、手をかまれたりすることもあるからだ。
 また、何より大切なのは、愛犬が退屈のあまりウンチにまで関心を示すことがないよう、飼い主が愛犬と一緒に散歩したり、遊んだりする機会を増やしたり、興味を引くおもちゃを与えたりして、ウンチから気をそらす努力が重要である。



【原因とメカニズム(2)】
「早期離乳」や「社会化の欠如」、「体の異常」などを疑う
 

 ウンチを食べる子犬の中には、症例はごくわずかだが、「食糞症」といえる、病的なケースもある。その直接的な原因は不明だが、いくつか推測される要因がある。
 その一つは、いわゆる「早期離乳」と「社会化の欠如」。つまり、子犬が生後、あまりに早い時期に母犬やきょうだい犬から離され、大切な「社会化期」にほかの犬とのかかわりが乏しかった場合である。母犬から早く離された子犬が新たな飼い主と出会うまで閉鎖的な環境に置かれていれば、心身の発育に必要な外的刺激が不十分で、他者(ほかの犬や人)への興味、関心も育たず、付き合いのルールも知らず、自分の殻に閉じこもりやすくなる。また、退屈が高じて、自分の手足やしっぽをなめる“自傷的”な行動にとらわれてしまうこともある。そのうえ、自分の周りに遊び相手もおもちゃもなく、いつも自分のウンチが放置されていれば、ウンチを食べることが、“自傷的”な行動の一つとなってしまうかもしれないわけだ。
 一方、「体の異常」がウンチを食べる行動の要因となることも考えられる。例えば、子犬のおなかの中に寄生虫がたくさんいたり、発育期なのに成犬用のフードを与えられていたりすれば、必要な栄養素が不足して、いろんな物を食べようとすることもある。また、寄生虫がいれば、食性が変わって、ウンチを食べだすこともあるかもしれない。あるいは、すい臓の異常で脂肪分解酵素の分泌が不足すれば、食べ物が半消化状態でウンチとして排せつされるため、ウンチに食べ物のにおいが残ることもある。その“食べ物”のにおいに引かれ、子犬がウンチを食べる可能性もある。



【対策(2)】
愛犬の様子やしぐさをよく観察し、おかしいと思えば、すぐ検査を
 

 犬がウンチを食べる要因として、「早期離乳」や「社会化の欠如」などが疑われる場合は、外的な刺激への興味、関心が育っていない可能性が高いため、ウンチから気をそらすことが難しい。そんな時は、ウンチを食べる機会をなくすことに力を注いでほしい。
 例えば、排便後すぐにウンチを片付けるのはもちろんのこと、毎日の散歩や食事の時間を一定にして、排便のリズムをつくり、なるべく、決まった時間に排便できるようにする。さらに、排尿・排便時、「ワン、ツー」などの号令をかけて排せつする習慣をつけ、号令がなければ、排せつしないようにしつけていく。そうすれば、飼い主の留守中に排便することを防ぐことができる。とにかく、食事のあと、何時間後に排便するかを確認し、排せつリズムをつくってやることが、排せつトレーニング成功のポイントである。
 また、先に述べたように、子犬がウンチを食べる背景には、おなかに寄生虫がたくさんいたり、すい臓の機能に問題があったりする場合もあるため、かかりつけの動物病院で健康診断を受け、どこか体の具合が悪いところが見つかれば、その治療を行うことも大切だ。
 いずれにしろ、病的な要因でウンチを食べる習慣を身に付けた犬の場合、様々な要因が複雑にからんでいることも少なくない。安直にしかったりせず、気長にウンチを食べる機会をなくす努力を続けてほしい。


*この記事は、2005年2月20日発行のものです。

監修/獣医師 どうぶつ行動クリニックFAU(ファウ) 尾形 庭子


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