肝疾患 ネコの肝臓は犬ほどタフではない。「薬」には弱く、ふだんから食べ過ぎだと、じわじわと肝細胞を苦しめる。 また、太ったネコが急に食欲不振におちいったら、肝臓に脂肪がたまる肝リピドーシス(脂肪肝)になり、急死することもある。要注意だ。 監修/小出動物病院(井笠動物医療センター) 院長 小出 和欣 |
カゼ薬が肝臓の「毒」になる |
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ネコの肝疾患は、一般的に犬よりも少ない(小出動物病院の統計では、全疾患中、犬の肝疾患が約5%。ネコが約1.4%)。といっても、ネコは肝臓の代謝機能が弱いため、薬物に対する抵抗力が犬より劣る。たとえば、犬の飼い主には、犬がカゼをひいたとき、人間用のカゼ薬を小割にして与える人もいるが、ネコに対しては、断じてすべきではない。人間用のカゼ薬には、通常、解熱・鎮痛剤としてアスピリンやアセトアミノヘンなどが含まれるが、ネコの肝臓はこれらの薬物をうまく代謝できず、薬物中毒をおこしやすい。またネコと犬でも代謝機能に差があるので、犬用の薬を安易にネコに与えることも避けたほうがいい。 これは犬の場合だが、特定の犬種(ベトリントン・テリア)では、肝臓が銅を代謝できず、肝細胞内に銅を蓄積しておこる遺伝性肝疾患がある。そのまま放置すると、慢性肝炎から肝硬変へと進行する。早期発見・早期治療で、銅の肝臓蓄積を防ぐ薬剤を投与すれば、肝硬変・肝不全への進行をくい止めることができる。とにかく肝臓は体に取り込んだ食物や薬・毒物を代謝・解毒・排泄する機能をもつため、それらの悪影響をとくに受けやすい(酒好きが肝臓を傷めて、ついに肝硬変から肝不全になるのはその悪例)。十分に注意したい。 |
太ったネコに多い肝リピドーシス(脂肪肝) |
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ネコの肝疾患で深刻な問題となるものに、一般に脂肪肝といわれる肝リピドーシス(脂肪肝症候群)がある。たとえば、太っているネコが急に食欲不振におちいるか、飼い主が急激な減量を始めるかすると、ネコの体は細胞のエネルギー源となる糖分を食べ物から吸収できないために、皮下や内臓のまわりにべっとりとたまった脂肪を溶かして糖分を確保しようとする。短時間にあまりたくさんの脂肪分が肝臓に集まるために、肝臓が適切に脂肪を処理できず、たくさんの中性脂肪が肝細胞の中に蓄積される。当然、脂肪に邪魔されて肝機能が損なわれていく。これが肝リピドーシスである。やせたネコなら、ふだんから飢餓状況に強く、水分さえ採れば、1週間ほど絶食しても耐えることができる。しかし太ったネコの体は、絶食状態に弱く、3日間食べないと、あわててみずからの脂肪を溶かし出し、肝リピドーシスになりやすい。 治療法としては、基礎疾患を治療するとともに、チューブを直接胃に入れ、栄養分を強制的に補給し、肝機能を損なう中性脂肪の蓄積を防ぎながら、回復を待つ以外にない。重症例では、死亡率が極めて高い。 肝疾患の場合、肝機能を直接的に回復させる治療法はほとんどない。肝疾患をいかに予防するか、いかに早く肝疾患を見つけ進行を防ぐか、である。肝疾患となっても、嘔吐や吐き気、下痢、食欲不振、多飲多尿など、肝臓が原因と特定できない症状が一般的で、飼い主も、つい体調不良ぐらいとしか考えず、通院、検査、治療が後手にまわることが少なくない。愛猫が太りすぎなら、掛かりつけの獣医師に相談し、無理のない、計画的な減量を行うことが大切である(前号で述べたが、糖尿病を防ぐためにも有効だ)。 |
肝疾患の早期発見と予防のために |
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肝リピドーシスや胆管肝炎などいくつかの肝疾患では、肝障害の症状として有名な黄疸(おうだん)が出現することがある。黄疸が進むと、愛猫の目を見て、瞳のまわりの白目が黄色くなっていたり(ネコの目は白目がほとんど見えないので、瞼を広げて注意深く観察する必要がある)、白い毛のネコなら、皮膚がすこし黄ばんで見えたりする。とくに、肝リピドーシスでは、黄疸が認められる場合が多いので、太ったネコの飼い主は、ふだんから健康チェックに心がけていたほうがいい。なお、黄疸とは、胆汁色素(ビリルビン)を処理すべき肝臓が機能障害をおこし、ビリルビンが血液中に蓄積した病態で、高ビリルビン血症ともいわれ、進行すると皮膚や粘膜、および尿も黄色くなる(肝疾患以外に、溶血性貧血などで、ビリルビンの素となるヘモグロビンが大量に破壊され、肝臓が処理しきれなくておこる場合もある)。尿の検査でビリルビンが検出されれば、ネコでは肝疾患の存在が強く疑われる。 黄疸以外で、発見の遅れがちな肝障害を知らせる指標となるものが、私たち人間が健康診断の血液検査で肝臓の状態をチェックする、AST(GOT)、ALT(GPT)、ALP(SAP)やGGT(γ-GTP)など、いわゆる肝酵素と呼ばれる検査の数値である。とくにALT(GPT)は、犬やネコでは肝細胞以外の組織にはあまり含まれていないため、血液検査でその数値が何百・何千と極端に高いと(通常の数値は40〜80以下)、何らかの原因により多数の肝細胞が障害を受けていると判断して間違いはない(ASTは、筋肉組織にもたくさん含まれる)。 肝臓は大きく、丈夫な臓器で全肝細胞の5分の4が壊死するまで、弱音をはかずに多様な仕事をこなすために、犬やネコの自覚症状もとぼしく、まして飼い主がいちはやく肝疾患の疑いをいだいて通院する機会はほとんどない。血液検査、尿検査やエコー(超音波)検査などの健康診断を定期的に行って、大事にいたる前に発見・治療できるように心がけるべきである。 とくに肝臓は血流が豊富で代謝が活発、他の臓器とのつながりも深いので、悪性腫瘍、つまりがんが発現したり、転移したりするケースも少なくない。がんもよほど大きくなってお腹がはれたり、肝不全症状を呈して気づいたのでは後手を踏む。もっとも、肝細胞の再生能力が高いため、がん細胞が特定の部位に固まっていれば、手術で取り除くことも可能である(転移がんの場合は、手術できない)。 とにかく人間でも、暴飲暴食の習慣は肝臓への負担が大きすぎて、真綿で首をしめるように肝細胞をじわじわと損なっていく。犬ならジャーキーなどの高蛋白・高脂肪の食べ物ばかりを与えるなど、偏った食餌が重なれば、問題だ。ふだんからバランスの取れた食餌を適量与え、散歩、運動、遊びなど十分にさせ、体力をつけさせる。当たり前のことだが、そんな暮らしを実践することが肝疾患を防ぐ基本といえるだろう。 |
犬・ネコに認められる代表的な肝疾患
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*この記事は、1998年3月15日発行のものです。 | |
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